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ルポ資源大陸アフリカ [本関連]

ルポ資源大陸アフリカ―暴力が結ぶ貧困と繁栄

ルポ資源大陸アフリカ―暴力が結ぶ貧困と繁栄

  • 作者: 白戸 圭一
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2009/07/31
  • メディア: 単行本

 以前購入したのを読み終わったので感想をざっと。
 
 この本は2004年から2008年まで南アフリカのヨハネスブルクを根拠地にサハラ以南のアフリカ紛争地帯を色々と取材していた毎日新聞記者のルポです。
 著者の人は4年の駐在期間のうち、家で泊まったのは1年間ほどというくらいアフリカの紛争地帯を色々と取材してきてます。
 それも強盗とか人身販売商人や砂漠の反政府勢力とか、普通のルートではとても会えないような人へのインタビューとかを。
 駐留期間が2004年から2008年なので、多少情報が古い点もありますが、アフリカの無茶苦茶な現状を描いたルポとして出色の出来かと思います。
 幾つか思ったことをつらつらと。

第1章 格差が生み出す治安の崩壊
 この章で取り上げられているのは治安悪化が有名で「ヨハネスブルクのガイドライン」とかもある南アフリカ。
 著者とその家族が住んでいたところでもあります。
 ここでは強盗犯とかモザンビークから流れてきた犯罪者とか、南アフリカ周辺諸国から少女を騙して連れてきて強制売春させる人身売買商人とかにインタビューしてます。

・まず所得格差がヒドすぎ。普通の労働者(メイドとか)と大卒初任給の差が10倍くらい。

・低所得者が犯罪を犯すと真面目に働くよりはるかに多い収入を得ることが出来るので、真面目に働こうという人間が少なくなっている。
 例えば日本だとニュースで報じられる犯罪で得られる収入が極めて少ない割にリスクが大きすぎるので、真面目に働いた方がマシだという感覚が出てきますが。

・南アフリカの周辺各国の白紙パスポートが犯罪組織に出回っていて、犯罪に使われてます。
 終わってますね。

第二章 「油上の楼閣」から染み出す組織犯罪
 この章は国際的にもネット詐欺などの「犯罪輸出国家」として知られるナイジェリアについての章。
 
・ナイジェリアでは国勢調査をやるだけで、各民族で衝突が起こって死傷者が出るのですね。
 いかに中央政府の基盤が弱いかと、それに基づく既得権益が大きいかを示してます。
・産油国なのに地元民衆に公共インフラなどの整備がされていないのは清々しいくらい。
 油田の側にある村には電気が無く輸入した石油(ナイジェリアには石油の精製能力が少ないため)で自家発電施設を動かさなくてはならないほど。もちろん公害はほっぽらかし。
・ナイジェリアの失業率は75%で、大規模内戦は起こっていないものの国の雰囲気は非常に悪い。所得格差も膨大。
・反政府武装勢力の資金源はパイプラインからの石油の盗難。ただし武装勢力も民衆の支持を得ているわけではない。

第3章 「火薬庫」となった資源国
 この章ではアフリカ大戦とも言うべき大戦争の舞台となったコンゴ民主共和国(旧ザイール)。
 一応内戦は終わったことになっていても、国の各地に武装勢力が根を張っていて、とても統一国家とは呼べる状況ではありません。
 なまじ資源国なので、地方で簡単に反政府武装勢力(そういうのもおこがましい武装勢力ばかりですが)が自活できてしまうんですよねえ。
 ルワンダ虐殺の犯人側の武装勢力とかが、未だにデカい顔してますし。

第4章 グローバリズムが支える出口なき紛争
 この章はスーダンのダルフール紛争。
 スーダンでの活動のみならず、隣国チャドに波及した戦争状況やチャドからスーダンに密入国して、反スーダン武装勢力にもインタビューしてます。

・スーダンの国民監視状況が厳しすぎ。
 正規に入国した場合、どこに行っても著者たちを監視する諜報員たちが居たそうで、その監視の目は自国民にも向けられてました。

・スーダン軍の元大佐にインタビューして、色々と残虐行為を行うことで有名な政府系民兵部隊ジャンジャウィードが何故編成されたかをスーダン政府側の立場から解説してます。
 こういうスーダン側からのジャンジャウィードについての解説記事は初めて読みましたね。

・元大佐によれば2003年のダルフール内戦勃発時に、スーダン陸軍の主力部隊は当時まだ内戦が続いていたスーダン南部に展開していて部隊を送れる状況になかった。
 そこでアラブ系遊牧民を中心に民兵部隊ジャンジャウィードを編成した。
 民兵部隊にはスーダン人だけではなく隣国のチャドや中央アフリカ国籍者も居た。

・スーダン軍は反政府勢力の勢力基盤を破壊するため、支持者らしき非アラブ系農耕民の村を襲撃するように命令。
 この襲撃をスーダン正規軍も前線で積極的に支援。
 また民兵部隊には募集時の手付け金以外に食料や給料を支給せず「自活」を命令したため、彼らは現地調達で生存せざるをえなくなり略奪や虐殺行為が堂々と蔓延。 
 
・ダルフール戦争は隣国チャドにも飛び火して大変なことになっている。

・スーダン側からでは監視が厳しすぎて反政府勢力に接触できないので、隣国チャドから密入国して反政府勢力司令官にインタビューをしているのにはスゴいです。

・反政府勢力NRFは砂漠を機動して行動しているゲリラ勢力だが、彼らが駆使しているのは衛星電話とインターネット。
 
・NRF司令官は銃と弾薬は敵から入手できるが、世界中の支持者と連絡を取る衛星携帯電話のプリベイドカードの方がずっと貴重とコメント。

・写真見るとNRFが使っているのは、全ておんぼろのトヨタランドクルーザー。
 さすが、その昔にチャドで「TOYOTA WAR」が戦われただけあります。

・スーダンの国家予算は中国の石油プラントで支えられ、国家支出の65.6%が「国防・警察・諜報」に支出されており、福祉やインフラなどへの支出は極めて少ないです。

第5章 世界の「脅威」となった無政府国家
 この章は無政府国家の代名詞となったソマリアについてです。

・ソマリア入りしたときに雇った10人の護衛兵(検問の無料通過オプション付き)のお値段が1日400ドル(約4万円)なのには思わず安いと思ってしまったり。
 日本国内の旅行だって下手したら、これ以上かかりますよ。
 もちろん貨幣価値などに多大な違いはあるのですけど。

・ソマリアで流通している通貨は「ソマリアシリング」で1991年に中央政府が崩壊してから、デザインが同じまま民間人が勝手に紙幣を印刷している。
 いわば「中央銀行の民営化」

・公的教育は崩壊し、機能してるのは保護者全額負担の学校のみ。
 その学校の校長のモットーが「平和と民主主義の担い手を作ることが大人の責務」というのは悲しいです。
 ある意味失敗国家だからこそ、その価値が判るのですね。

・一時的にイスラム法廷会議はソマリアの大部分を制圧しますが、イスラム法に基づく偏ったものとはいえ、ソマリア国民に法の保護と福祉を与えました。
 その資金源はサウジアラビアやアラブ首長国連邦から。
 ただ、その平和は短期間でしたが。

・イスラム法廷会議はアルカイダ寄りの政府なので、アメリカの後押しでエチオピア正規軍がソマリア侵攻し、イスラム法廷会議政権を倒してソマリア暫定政府を復帰させたのですが、すぐにイスラム勢力のゲリラ戦が開始。
 このとき、ソマリア暫定政府のアイディード副首相が著者のイスラム法廷会議の兵員数についての質問に答えた言葉が
「数えるのは不可能だし、無意味です。法廷会議とは、ソマリアの人々の心の中に生きているのですから、誰も数えることは出来ない」

終章 命の価値を問う

 この章では著者の体験から崩壊しまくっている南アフリカの公的医療の実状を書いてます。
 惨状以外の何者でもありませんね。
 私立病院以外、機能してません。


 しかし、アフリカには日本のマスコミは駐在員もほとんど置いてなくて責められることが多いですが、逆に人数が少ないからこそ好き放題出来るという気もしてきました。
 著者の人は人数が多ければ許されないこともいっぱいやってますし。


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