台湾海峡一九四九 [購入物(その他)]
遅ればせながら読みました。
今まで何で読んでなかったのかと後悔する程の本。
台湾についての本は外省人に抑圧を受けた本省人についての書籍が多いですが、こちらは1949年に共産党が大陸制覇した際に台湾に逃げてきた外省人達の悲惨過ぎる人生の境遇がメインのドキュメンタリーです。
著者の母親も兄にあたる生まれたばかりの赤ん坊と二人だけで台湾に逃げた人で、母親が1949に台湾に逃亡した際に体験したことから次々と連鎖して、話が進んでいきます。
この本では、よくぞまあそんな凄まじい境遇の人を探しだせたな、というレベルのインタビューを沢山してます。
外省人に限らず、大戦中に南方で連合軍捕虜の監視人してた台湾人少年兵や、満州国に移民していた台湾人とかのインタビューとかもあります。
悲惨な描写は沢山ある本ですが、不思議と前向きさもあって読んでいて憂鬱になってくる度合いは少ないです。
「国共内戦時に5000人の先生と学生が疎開して、徒歩で中国大陸横断してベトナムに着いた時には300人に減ってたけど、ベトナムの収容所で授業再開した」
とか、そんな感じのノリの話ばかりですし。
ある意味悲惨な亡国の末期戦属性なら絶対読むべき本。
軍事知識がなくても問題なく読めますが、軍事的知識があると背景とかが判って、更に深く内容を読み込めます。
幾つか印象的なことを箇条書き。
・国民党政権の大陸喪失後に中国沿岸で跋扈した「反共救国軍」
機帆船に乗った金門島などを根拠地にして大陸を襲撃していたゲリラのようなもので、給料出ないので通りかかった外国船襲って海賊行為で補給。
兵員補充は大陸の村襲って男達を誘拐して、兵役適齢なのは金門島の正規軍に補充として送って、少年は自分達の補充兵にしてた武装集団。
1955年以後はきちんと国から給料も出るようになったので海賊行為は止めますが、その後も大陸への秘密襲撃作戦で多大な損害を出します。
13歳で大陸沿岸で「反共義勇軍」に攫われて少年兵として戦い、実家に帰れたのが1989年という人にインタビューしてます。
・日中戦争で捕まった中国軍捕虜で遠くラバウルまで送られて強制労働させられていたのが居たとは。
当然、犠牲者沢山です。
・負けた側として国共内戦での共産党軍の残虐行為も描いてますが(その為にこの本は大陸では発禁)、それ以上に自分たち国民党軍の悪行もきちんと書いてます。
日中戦争後半や国共内戦での国民党軍の兵士補充は、手近な農村で男や子供を強制的に集めて沢山集めた奴が小隊長とか分隊長に出世できるという北斗の拳のサウザー聖帝軍みたいなのが珍しくなかったので、強制的に親から引き離された十代以下の少年兵が珍しくなく、台湾に逃げることが出来た国民党軍兵士にもそんなのが沢山居て、軍隊も
その扱いに苦慮してたりします。
台湾に逃げてきた国民党軍は台湾人に高圧的に振舞ったとか評判は良くないですが、その兵士たちのかなりの部分が農村とかから誘拐同然に徴兵され
て、訳の判らないうちに台湾について二度と大陸の故郷に帰れなくなりました、という教育もない少年兵だったりするので、やるせないです。
そんな悲惨な境遇の元少年兵達へのインタビューが幾つもあります。
・強制的に徴募した兵士たちの脱走を防ぐために、夜はズボンとパンツを取り上げて下半身裸で野営して、恥ずかしくて逃げれないようにしてましたが、それでも逃亡者は続出したようです。
・ベトナムに逃げた国民党軍の話で好きなのは、ベトナム国境でフランス軍に武装解除された時に軍楽隊が徒歩で持ち歩き続けてきたホルンとかの楽器は武器じゃないとフランス軍が判断して、収容所では音楽が耐えなかったという話
・日本軍が捕虜監視要員として台湾人少年を動員した時の訓練に「ビンタの訓練」なんてのがあった時点で、後の戦犯裁判とかに繋がるの当たり前
・日本の敗戦で台湾に初めて進駐した国民党軍がボロボロで失望を呼んだのは、今では台湾の教科書にも載ってるそうですが、実際に第一陣として駐留した国民党軍第70軍がどれだけ悲惨な戦歴の部隊なのかも生存者の証言で解説してます。
第70軍は靴さえ支給されず、草鞋を自分たちで作って履いている部隊だったそうで、そりゃボロボロですよね。
あと台湾に来る前に、終戦後も日本軍&汪兆銘政権の中国軍と共産軍の間で激しい戦闘が繰り広げられていた寧波を接収するため、徒歩で強行軍で行軍し、ようやく寧波の騒乱を鎮めたら、準備期間もなく突然アメリカ軍の船に乗って台湾に行け、ですから何も整える余裕はなかった訳で。
・アメリカCIAが実行していた大陸から逃げてきた中国人にサイパンで訓練を施して、中国本土に隠密降下させた作戦は全く効果を上げず優秀な人材の無駄死にに終わりましたが、その訓練を受けてた人も探しだしてインタビューしてます。
とにかく、かなり中身も充実しきって濃い本です。
あとがきにあるように、軍事的な誤りとかも、後に出てきた当時の証言とかで補完して修正され続けているようですし。
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