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日本陸軍の偵察についての戦術思想 [軍事]

歴史群像 2010年 06月号 [雑誌]

歴史群像 2010年 06月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 学研マーケティング
  • 発売日: 2010/05/06
  • メディア: 雑誌

 歴史群像最新号をゲットしました。 
 連載の「各国陸軍の教範を読む」は毎回楽しみにしていますが、今回の「第十二回 捜索と攻撃 その四」を読んで、ちょっと語りたくなったので書いてみます。 

 今回の記事はWW2までの日本陸軍の戦術教範で「捜索」がどのように定められていたか?がメインです。 
 内容をざっとまとめると、 

・日本軍の捜索思想は、一見ドイツ軍の教範とよく似ているが中身は別物 

・ドイツ軍の捜索思想は、 
「捜索部隊指揮官に優秀な者を配置し、その下の斥候などに高い能力は必要ない」 
だが、日本軍の場合、 
「階級を問わず斥候任務を行うものは優秀でなくてはならない」 

・捜索部隊の任務はドイツ軍の場合 
「偵察すべき任務は厳しく制限し、司令部が知りたい情報の優先順位を厳密に定める」 
 日本軍の場合は、 
「捜索に任ずる者は命令が無くとも地形、交通、通信、気象、地方物資の状況、住民の動静を調査しなくてはならない。その中でも地形偵察は何が何でも行う義務あり」 
 一見、日本軍の方が情報を多岐に集めているように見えるが、限られたリソースの中で効率的に情報を集めるのが戦場では重要なので、日本軍は結果的に捜索活動を軽視している。 
 良い例がノモンハンでの東捜索隊の全滅。 

・ドイツ軍教範では、 
「状況が判らなければ予備の捜索部隊を投入して更に敵情を調査」 
 日本軍教範は 
「敵情が不明でも躊躇せず行動せよ」 
 これが招いた敗北の例としてガダルカナルの一木支隊の全滅。 

  
 今回の記事も著者の田村尚也氏の筆致は冴えまくっていて書かれている内容は正しいと思います。 
 ただ日本陸軍がどんな戦場で戦うための軍隊だったか考えると、こんな戦術思想になるのは当然で仕方ないじゃないですかと叫びたくなってしまいます。 


 今回の記事では日本軍とドイツ軍を比較してますが、そもそもの日本とドイツの国情を比較してみましょう。 
 まずドイツの地形。 
 ドイツに行かれた方々なら分かるでしょうがひたすら広々とした大平原です。 
 山岳地帯も一部にありますが、そちらは専門の山岳部隊に任せることが可能です。 
 こんな地形では偵察部隊が地形調べる必要性は少ないです。 

 一方の日本の地形。 
 こちらは山あり谷ありで敵情よりも地形を調べることが最優先となります。 
 教範のように「何が何でも地形だけは偵察しろ」と決めておかないと部隊の行軍すらできませんね。 

 次は実際に両軍が戦った戦場を。 

 ドイツ軍が戦った戦場はフランスやらドイツやらロシアの大平原が主軸。 
 大部隊が集中しているので大規模補給倉庫とかも作りやすく、腰を押し付けて戦えます。 
 敵地の地図も最初から作成されていますし、敵地住民の情報も分かってます。 
 後方を守る警察部隊やSS部隊もそれなりにいるので、前線部隊は占領後の敵住民や物資調達のことをあんまり考えなくても構いません。 
 このような戦場では少人数の斥候送り出すより、きちんとした大規模偵察部隊送り込んで敵情報を調べた方が効率的です。 

 日本軍が戦った戦場は地形の変化に富んだ中国大陸や南方のジャングル地帯が主でした。 
 山岳地帯ばかりのアフガンで現代でも軍隊が補給に苦労しているように、大規模な補給物資の集積は極めて難しいです。 
 敵情が不明でも手持ちの補給物資が残っているうちに行動しなければ部隊は戦闘力を失います。 
 交通の不便な場所で機動しつつ戦うため後方からの補給は期待できず、前線部隊であっても現地調達して生き延びる必要があります。 
 後方警備部隊を配備する余裕も無いので、前線部隊が戦闘しつつ現地住民との交渉や対ゲリラ戦を行わなければなりません。  
 そもそも戦場の地図すら無いこともあり、行軍しつつ各地に優秀な斥候を出して地形を調べながら道を進むのは必須です。 

 結果、比較すると 

「問題はあっても、日本陸軍はそういう捜索部隊の戦術思想じゃないと戦えなかった」 

という結論になります。 
 正直、第二次大戦の日本がきちんと補給物資を集積出来てちゃんとした大規模捜索部隊を送り出すことが出来るような国だったら、そもそも戦争に突入してませんね。  
  
 ただ、今回の記事を見てWW2での日本陸軍が地図も無いような極限環境の戦場にいきなり送り込まれても、ちゃんと戦うことができたのか納得出来ました。 
 必要に迫られたとは言え、「未知の戦場でも調査しながら戦う」というのが戦術思想に入っている近代正規軍なんて、あんまり無いと思います。

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コメント 1

MUTI

ドイツ、日本の偵察思想の産み出された背景への考察、
大変興味深く、納得させていただきました。

ただ、旧日本陸軍の場合、仮想敵国はソ連で、もともと対米戦は大して考慮していませんでした。
南方の対米戦を重要視するようになり出すのが昭和18年9月からでしたか。
ですから、ご指摘の、日本軍が想定した地理上の特性は、満州~シベリアの森林・沼沢・丘陵・山岳地帯のものではないでしょうか?
そしてそれが南方ジャングルでもそれなりには有効だった、ということでしょうか。
by MUTI (2010-05-30 10:49) 

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