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ネパール人に偽装してイラクで不法労働者として働いた日本人の本 [購入本]

ルポ 戦場出稼ぎ労働者 (集英社新書)

ルポ 戦場出稼ぎ労働者 (集英社新書)

  • 作者: 安田 純平
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2010/03
  • メディア: 新書

 

 これは凄い本です。
 内容も凄いですが著者の色々な意味でのバイタリティも。

 この本はアメリカ軍の下請けでイラク治安維持にあたるPMCの更に下請けで働く途上国の労働者の実態についての本です。
 普通ならイラク現地で様々な労働者にインタビューなどして本を書くでしょうが、この本の著者はそれでは内容が不十分だと考え、実際にイラクで PMCの下請け出稼ぎ労働者として働いて、その時に体験した内容を元に本を書いています。
 著者はクウェートでの外国人下請労働者募集に応募してイラク入りしようとしますが、日本人というだけでどこからも雇ってもらえないので、著者は ネパール人に国籍偽装してようやく雇ってもらいイラクで働くことに。
 名前や風貌が日本人なのは「祖父がネパール人で日本人と結婚したため日本人の血が混じっており、生まれが日本なので日本風の名前を付けた」とい う理由で押し切りました。
 イラクで得た仕事はPMC基地のシェフ助手ですが、著者はあんまり料理が出来ず、仕事は現地で覚えて行くことに。
 何と言うかやっていることが体当たりすぎて、読んでいて感嘆の言葉しか浮かんできません。
 一応、単純な猪突猛進じゃなくて、かなり考えながら行動はしてはいますが。

 このような著者が飛び込んだ状況とかからも判る通り、この本は戦場体験記に留まらず、外国人不法労働者の実態とかについての本でもあったりします。
 昔からある「最下層労働者の仕事を体験してみた」というルポ本でもありますね。

 
 で、この本は「ネパール人に化けてイラク現地で民間軍事会社の下請け出稼ぎ労働者の仕事を体験してみました」という本なので、書かれている内容 が他のイラク戦争本とは一線を画しています。
 本当に戦場での最下層労働者の立場から見たイラク戦争です。

 いくつか箇条書きで

・著者はほとんど基地から出ずに、基地内でずっと料理などをやっているだけだが、それでも街から聞こえるIEDの爆発音などはいつものこと。

・仕事はPMC宿舎の食事準備や掃除だったので、仕事内容の説明がそのままPMCの後方支援体制についての解説に。

・著者は最初は基地のシェフ助手でしたが、仕事を覚えて最語には正式なシェフに昇格。現地で雇用したイラク人労働者たちを管轄して基地の料理のみ ならず掃除等の全ての雑事を仕切る立場になってしまいます。
 最初は仕事をおぼえているだけで精一杯だった著者も、任期終了直前にはイラク人現地労働者たちの未払給与(及び自分の未払給与)を払ってもらう ために、彼らを代表してアメリカの本社とかと交渉を繰り広げるまでなってしまいます。
 貴重な戦場体験記だけではなく、著者の冒険物語としても非常に面白いです。

・アメリカ軍以上にポーランド軍は一般人を戦闘に巻き込みまくるのでイラク民衆から嫌われていた。

・PMCの食料は値段が安いインドとかから購入しているが、現地雇用のイラク人労働者はハラール処理の関係で誰もそれを食べないので、結局イラク でかなり購入。
 現地商人もPMC相手には値段をふっかけてくる。

・ネパールではイラクなど外国に働きに行けるのは、出国関係費用を負担出来るそれなりの資産を持っている人間ばかりで、普通の貧乏人は国外に出る ことすら出来ない。
 家が金持ちで働かずにニートをしていたが、親からイラクで働いてこいと家を追い出されたネパール人労働者もおり、イラクで労働者やっているのは 基本的にそれなりの金持ち。
 ちなみにネパールから外国で不法労働者として働く場合、国によって必要なお金のランクが別れており、日本が一番金額が高い。

・基地のアメリカ人やオーストラリア人は何でも食べるのにイギリス人は偏食ばかりで、イギリス人の特異な食嗜好はこういうものかと著者は納得。

・著者たちの上司のモラルは乱れていて、給与のピンハネなどの不正をやっていたりほとんどアル中もいた。

・現地イラク人労働者たちを率いる立場になったので、彼らからイラクの生活実情を色々と聞くことが出来、書かれているのはかなり貴重な情報ばか り。
 少なくとも著者が接触したイラク人は「フセインの悪口を言わなければ平穏に暮らせたフセイン時代」を懐かしんでいる人たちばかり。


 著者は安田純平で、この取材をする前の2004年4月にファルージャで武装勢力に捕まって、色々と騒ぎになった経歴 があります。
 ネット上では色々と叩かれることの多い人で、本に書かれている著者の意見も納得出来ない点が幾つかありますが、ここまでの実行力を持っている と、もはやそんなのはどうでも良くなってきて尊敬するしか無いです。少なくともちゃんと現実は見ていると感じますし。
 文章力もちゃんとしていて非常に面白く読めますので、この本はオススメ。
 イラク戦争のことなんて判らなくても、普通に単なる冒険記としても面白いですし 


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