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漢奸裁判史 [歴史]

 去年、復刊されたこの本

漢奸裁判史 新版――1946-1948

漢奸裁判史 新版――1946-1948

  • 作者: 益井 康一
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2009/10/23
  • メディア: 単行本
を読みました。 
 日本敗戦後に国民党政府によって対日協力者として裁かれた日本軍側の南京政府の面々の裁判についての本です。 
 「それは無いだろう」という罪状の裁判記録ばかりで読んでいて最高にやるせなくなります。 
 例えばウィキペディアの漢奸の項目読んでいるだけで欝になりそうですから。 

 しかし、日本軍側の傀儡政府とされる南京政府の体制などについて、きちんと書かれている本は初めて読みました。 
 そんな資料、中国でも日本でも黒歴史扱いなので全然無いですし。 
 どうも中国にすらまともな裁判資料が残っていないらしいので、当時中国の新聞に掲載された漢奸裁判の記事をまとめて構成し直したのが、この本なくらいです。 

 ただ、裁判記録見る限り「傀儡政府」に留まらず、かなり自主性を持った政府ではあったようです>南京政府 
 「傀儡政府」と言われる政府は歴史上沢山ありますが、実際は違うことが多い通例と同じですね。 

 読んでいて興味深いと思ったことは沢山ありますが、それをいくつか。 

・日本軍の敗戦後、南京政府軍の一部が「重慶政府の命令を受けた」と称して裏切って日本軍に対してクーデターを起こし南京市街を制圧するのですが、日本軍から重慶政府に確認したら、 
「クーデター部隊はウチとはなんの関係も無いので日本軍側で適当に処分して問題無し」 
と言われてしまい、クーデター参加者たちも漢奸裁判にかけられることに。 
 南京政府軍の部隊もこんなノリで国民党側から日本軍に裏切ったのが多そうな感じがw 

・ある高官が裁判で死刑判決を受けた直後に「この裁判の裁判長はは元々南京政府側に居た人間で、そんな裁判は無効だ」と暴露して大騒ぎに。 
 裁判は無効となり裁判長も漢奸裁判を受けることになったが、高官のやり直し裁判でも結局死刑。 

・南京政府の秘密警察「七十六号」は、まさしく南京政府の剣であり盾。 
 大戦末期に色々とあってトップが暗殺されて無力化されますが、この特務機関が存在しなかったら南京政府は存在することすら難しかったでしょう。 
 ちなみに「七十六号」の名前は厨っぽいですが、ライバルの重慶政府側の特務機関の名称も「C.C団」「蘭衣社」という厨二病っぽい名称なので同レベル。  

・終戦後、日本に亡命した高官たちも存在しましたが、それを迎えた当時の日本の混乱がヒドすぎ。 
 飛行機で降り立ったら進駐してきた中国人と間違えられて暴徒に襲撃されそうになったり。 

・汪兆銘の妻として生存中も強い影響力を持ち、その死後は実質的な南京政府トップの陳壁君の裁判記録は非常に漢らしいです。 
 日本軍が陳壁君の影響力の大きさを汪兆銘に苦情を言ったら、 
「彼女は私の妻としてではなく、古くからの革命の同志として政治に携わっているのだ」 
と反論されただけあります。 

 当時の新聞記事をメインにまとめたので厳密には誤っていることも多いのでしょうが、類書が殆どないのでそれだけで非常に貴重。 
 ただしやるせなさに欝になる本ではあるので、気分が落ち込んでいる時には読まないことを推奨します。  


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